忘れながら生きてる

観劇や読書の備忘録。基本ネタバレ全開。敬称略でごめんね。

楽園王『仮病ガール』

楽園王20周年記念二作連続公演その二、らしい。
初めて楽園王の長編というか本公演を見たわけだが
作・演出の長堀博士の言葉が音楽的にも文学的にも非常に美しく
また、主演の大畑麻衣子の好演により世界観にぐいぐいと引き込まれていった。
句読点ずらしというものは体現できないと
ただ単に奇をてらっただけに見えてしまうものだが
見事にはまるとこれほどまでに素晴らしいものかと感じた。

また、崩壊する家族の父親役の植村せいの説得力もすごかった。
私は説教的な台詞、特に説明になりがちな台詞を非常に嫌うのだが
彼の言葉はそうであったにもかかわらずものすごい説得力と真実味を感じた。
役者の力によって台詞に命を宿すとはこういうことかと思う。
「人間というのは助け合うようにできているのだ」
わりと最近個人的に色々と思うことがあって
その言葉を聞きながらつい泣いてしまった。

"軽いほうの仮病"を使うモトハシさんと、主人公の少女を見ながら
私は、高校を中退した仲のよかった同級生のことを思い出していた。
彼女はいまも元気にしているのだろうか。
どうして思い出したのだろう。心配しているように見せかけながら
自分のことに必死で本当はそんなに気にも留めてなかったという罪悪感が
ふと、その「モトハシさん」のすべてを見透かすような目によって
顔を覗かせたのかもしれない。

仮病ガールの話と
下町へ戦争の話を伝えに行く刑務所にいる男の話と
娘に独立を告げられた父親の話。
楽園王の物語は一見して少し難解にわかりにくく作られているように思えるが
実はいくつもの糸が丁寧に組み合わせて織られた美しい布のようだと思った。
少し引いて見た方がわかりやすいのだな。きっと。
ユニット形式ではなく、劇団員という括りをもったほうが
句読点ずらしなどのメソッドやダンス的な場転は
精度が上がり生きるのではないかと思う。

主人公の少女は、高校時代の私によく似ていて、それでいてとても遠かった。
彼女のような冒険ができていたら、本物の空を見ていたら
私の人生は少し違うものになっていたのだろうか。

@上野ストアハウス
★★★★☆

原田宗典『彼の人生の場合と彼女の人生の場合』

ふと立ち寄った図書館で戯曲でも読むかと思い
原田宗典だからと手に取った一冊。
読み始めて気づいたのだが、私はシアターTOPS最後の演劇祭で
大谷亮介のこの一人芝居を見ていたのであった。
やっぱり大谷亮介はすごい、と思う。
そして原田宗典の言葉は好きだ。かっこよくなくて好きだ。

『日本の問題』チームA

小劇場版『日本の問題』と銘打たれた、全8劇団が参加した公演。
残念ながら日程の都合がつかずAチームしか拝見できなかった。

当パンどっか行っちゃったのでそれぞれのタイトルは後で付記します。

経済とH
一言で言ってしまえば面白くなかった。
それは問題と思われるものをあげつらっているだけで
解決に向かおうとすらしていないのではないか、とか
それを演劇でやる意味があるのかい、とか。
役者の"熱演"も、気合だけがあって空回りしている印象。
唯一おっ、と思ったのは「戻る場所はそこでいいのかい?」という問い。
それくらいかなぁ。

Mrs.Fictions
四劇団の中で一番好きでした。
やっぱり物語がしっかりしているのがいい。
他の人の感想でもチラホラ見かけた
「日本の問題、というテーマにおいてはどうなの?」という点はたしかにあれですが
一番舞台を見に来て楽しめた、という充実感があったのはこれでした。

DULL-COLORED POP
試みとしてカナリ面白いな、と。さすが谷賢一。
ある意味一番演劇的で挑戦的でした。
歴代の首相、就任時に結構面白いこと言ってたんだなぁという新発見も。

風琴工房
たぶん名前しか知らなかった団体さんの初見。
空気感はすごく好きでした。
役者さんの力量の差がずいぶんハッキリ見えちゃったなぁ。
先生役の方が本当に素敵で、何分でも何時間でも見ていたくなりました。
はぐらかす間、言葉を受ける身体、ステップ。惹かれるものがありましたね。
世界観もすごく好きなんだけれど、説明に若干終始してしまった感じが。
警鐘を鳴らしたいポイントは伝わったのですが
学生三人の役者の力量が追いついてなかった感じがしたのが残念。

イキウメ『太陽』

久々にシンプルなタイトルできたなぁと思いつつ。
青山円形劇場はあまり好きではないのだが、
それでも入り込んで観られるだけの引力があった。

大窪人衛の役は当初窪田道聡だったのではなかろうか、と邪推。
それでも大窪人衛も見事な熱演だった。
やっぱり前川知大が使ってこそ魅力が出る、と思う。
や、ゴジゲンの客演を見て若干失望していたので。
加茂杏子といい、若手がグイグイきてますね。

まだ上手くまとまっていないので、おいおい追記していきます。
浜田信也が好きです。バンザイ。

東京原子核クラブ (ハヤカワ演劇文庫 16)/マキノ ノゾミ

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マキノノゾミの優しい視線。
この人の作品が愛される理由がわかった気がする。


日常を丁寧に切り取ることが、時に"異常"への痛烈なアンチテーゼとなる。
喜びや安らぎを描くことで、強烈に浮かび上がる悲しみや怒りがある。
だけどそこにあるのはただただ、人間を想う優しい目。
好きだなぁ。


題材的には、こないだ(つっても結構前か)観た
劇団バッコスの祭りの『センの風とムラサキの陽』を思い出した。
結局、日本人にとって原子力ってのは
永遠に向き合っていかなきゃいけないテーマなんだと思う。
このタイミングで言うのもあれですが。


この本が読み物として何より面白かったのは演出ノート。本当に勉強になる。
私はきっとまだ「ここを立てすぎたら台無し」「嫌味が全面にでないように」というところで
立てすぎたり、嫌味になってしまうんだろうな、と読みながら思った。


この本で一番面白かったのは実は演出ノート。
作者の意図や魂胆をこうやって平行して読めるのは本当に勉強になるし
マキノさんの音響や早替えに求めるリアリティと
それにスタッフがどう応えたかという話も興味深かった。


たぶんまた何度か読み直すんだろうな。
しかし初演キャストで映像が残ってないものか。超観たい。

イキウメ『プランクトンの踊り場』

プランクトンの踊り場
久々に赤坂赤劇場行ってまいりました。
やっぱここのがいいなぁ。


↓以下ネタバレ(結構ネタバレ)


つい先日、紙垂をネットで作り方調べて作ったばかりだったので
初っぱなから笑えましたw


今回は本当に「冷たいって言ったから」まで、何がどうなっているのかわからず
いやぁワクワクさそていただきました。
やっぱりイキウメのホンはすごいと思う。隙がない。
イキウメの演技はある種独特のテンポと世界観があって
それがホンを引き立てているとは毎回思っていたけれども
今回はそれとはまた別に、舞台で芝居として観る意味というものを見つけた感じです。
というのも、観ながら何度か
「散歩する侵略者も舞台で観たかったなぁ」と思ったので。
結局、小説では読み手の想像力の範疇を出ないのよね。
小説<芝居という意味ではなくて、役者は想像を超えたリアルを提供できるという話。


常々思ってますが、やっぱり安井順平はすごい役者だ。(大好き


人間の分裂→プランクトンの踊り場。と気付いた時はウワワワワァァァァとなったよw
チラシも入手してなくて宣伝葉書のみだったからなぁ。


今回の舞台美術は面白かったな~。ぐるぐる。
客入れ中の、少しだけ開いて光が差し込む感じが美しかったです。
そうそう、イキウメの照明大好きなんだけど松本大介さんだったんだね~。
大介さんがイキウメの照明やってる人という認識はあったのですが
イキウメの照明さんが大介さんという認識はなかった!(微妙なニュアンス


"三人目"は緒方さんだったのかしら。と、カテコを見て思ったり。
ゆかりちゃんが可愛かったです。ああいう子好きです。

幸せの歌を歌う犬ども

幸せの歌を歌う犬ども
当てられ書き。


↓以下ネタバレ


う~ん、なんか最後ポーンと投げ出されちゃったような感じ。
どうなるか見届けたかったし結末が欲しかったので不完全燃焼。な感じ。
当てられ書き、というわけで役者がやりたい役を脚本家が書くという
面白い企画ではあったんだけど、ど~うもなんかもっと違うのを期待してたなぁ。


難しい。
実は今回の脚本のテーマ的なものは、
ずーっと私がやりたかった話に似てるんですよね。
つまり『(盲目的に与えられた)幸福な世界は幸せか』という議題。
今回のはまぁテーマありきの芝居ではなかったということがわかるので
なんというかまぁとりあえずさらっと触れるだけですが。
まーでもおんなじこと(と私は思ったのですが!)思いつく人間が他にもいるとわかって
嬉しいやら、もっと練らなきゃなぁと反省したりやらです。
まぁねー。
コメディタッチにしちゃえば"強制幸福状態"は宇宙人の仕業にできちゃうんだよねー。
私が書きたいのはイキウメみたいな"リアリティある恐怖と困惑"だったから。


結局さー。歌うだけじゃどうにもならないのよね。
作品としての結論にはなるのかもしれないけど、じゃぁあのなんちゃらカフェの人々は
あのままどこへもいけない生活を送るのかなーとか。まぁ恐怖っちゃ恐怖だけど。
ギャグパートのテンションのせいでしょうか
なんか叫びがソリッドになりきれてなかった印象です。


ギャグパートは、あーたぶん(もう何十倍も過激だったとは思うけど)
ギャグドーンドーン!な学生劇団のノリなんだろうなー、という印象。
モノにしろ曲にしろ使い方がやっぱり上手いなぁ。
コンニャクや鯛焼きの消え物が汚~い感じに使われたのは個人的には好きです。笑
役者がはけづらい舞台を逆手に取った、舞台の奥で出てない役者が
紙切りをしている演出は結構好きでしたが、これもなんか結論が欲しかったなー。
あ、こう持ってくるのか!みたいなオチ的な何かが。


一番印象的だった役は挙動不審な男の人でした。
わりとわかりやすい、幸せって幸せかな?の例だった気がします。
印象的だった役者さんはワタヤさん(笑)を演じていた安川結花さん。
アル中の手の震えなんかももちろんそうなんですが、BIG ISSUE売ってるときの
あの笑顔が本当にずっこーんとツボでした。


当てられ書き、妹がもったいないなーと思いました。なんとなく。
いや、姉でもよかったんじゃないのあれだけなら、と思わなくもなかったり。
宇宙人も最初に他の宇宙人出てきて宇宙人なのは彼女だけじゃなかったし
結婚詐欺師は詐欺師に見えなかったの。個人的に。
面白かったんだけどね~。なんか想像してたのとちょっと違った。笑