読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

忘れながら生きてる

観劇や読書の備忘録。基本ネタバレ全開。敬称略でごめんね。

人間合格

ロマンスがチェーホフ先生へのラブレター喜劇風味だったとしたら
この人間合格は太宰治と巡る明治・昭和の激動期、といった所でしょうか。


↓以下ネタバレ


幕が降りて人間"合"格と直されていて、その意味するところに気づいた時
何故だか私の目がちょっと潤んだのです。
個々人の幸福と万人の平等は対立するものなのか。日本人である前に人間なんだ。
隠れ、逃げ、苦しみ、嘆いて、そして死んで行った佐藤こそが
裏切り、別の道を選び、時代に迎合し、信念を曲げ、ツケが回り、
最後にはすべてから逃げずに戦った山田こそが
望まれぬ生を受け、宙吊りの立場に戸惑い、様々な失敗を繰り返し
それでも輝くダイヤの力を信じようとした津島修治こそが
"人間合格"だったのだろう。


今回は日本語で行われる日本が舞台の劇ということで
井上ひさし先生の紡ぐ日本語の美しさ、力強さがより光ってます。
役者も本当に見事でした。 特に衝撃を受けたのが辻萬長さん。
こんな役者を知らなかったなんて、いやぁ自分損してたなぁと素で思いました。
山西課長の場を引っ張る力にも魅了されましたし、甲本雅裕氏の存在感もすごい。
津島修治役の岡本健一さんは甘いマスクだけでなく
見事な太宰らしいオーラを纏ってましたし
いくつもの役をやった女性二人は、本当にそれぞれの役で別人のようでした。
何が面白いって山西課長が京大出身なんですよね。説得力が違う。笑
たぶんかなり理解してるんだろうな、って厚みがありました。特に序盤の学生時代。


役者の力量差か、井上先生の描き方かはわかりませんが
今回は太宰治の物語というようには思えませんでした。
太宰を語るならば外せない自殺未遂や心中事件もほとんど触れられなかったし
この物語の主役は佐藤と山田で、修治は単なるストーリーテラーに思えました。
(思えば、修治だけが明確な挫折・苦難を描かれてない*1んですよね)
この件については後でじっくりパンフ読んで答え合わせしよう♪


そういえば、初めて"生の舞台での大きなハプニング"に遭遇しました!
たわしで、長屋の扉が壊れて閉まらなくなってしまったんです。
ちょっと焦って「このボロ長屋が!」とアドリブを入れる山西課長。客席爆笑。
結局扉が外れてしまい、枠に立て掛けて芝居を続けようと場の真ん中に戻る課長。
と、ノシノシと辻さんがその扉に向かい、ガタンガタンと枠にはめなおしました。
思わず大爆笑のなかに拍手が起こる客席。
そして舞台真ん中に戻ってきた辻さんに向かってアドリブで
山西課長が「このことだけは恩に着る」と。
観客再び拍手&大爆笑。それからしばらくはすごいヒーヒーなってましたw
舞台役者すげぇなぁ、やっぱこういうのあるからやめらんないやと思った瞬間でした。
想定外の事態の中でも"佐藤"と"中北"でいた課長と辻さんはすごい。

*1:全体的に苦労人ではありましたがね。計画の頓挫は明確な苦難に入るのかしら?