忘れながら生きてる

観劇や読書の備忘録。基本ネタバレ全開。敬称略でごめんね。

歌わせたい男たち

ケタケタ笑いながらも、グルグル考える話。


↓以下ネタバレ


大谷亮介、戸田恵子近藤芳正小山萌子中上雅巳と、シンプルながら
実力のある五人が繰り広げる、抱腹絶倒で、だけどメチャメチャ考えさせられる話。
特に、この舞台の初演を観て周防監督がそれボクにスカウトしたというほどの
大谷さんの演技は本当にお見事でした。深さのあるコメディ。哀しい可笑しさ。


この舞台は問題提起がストレートだったんで色々考えやすかったです。
卒業式の国歌を歌うか、歌わないか。何故歌わねばならないのか。
"歌わせたい男たち"の代表である校長は、右翼なんかではなく、むしろ
昔は内心の自由を生徒に語って聞かせるような校長先生だった。
それが規則に縛られ圧力に脅かされるうちに"信念までも"曲げてしまった。
一番問題なのは、権力で自由を平然と奪おうとする都の方針と手段。
一番哀しいのは、校長先生のように手段と目的が錯誤して信念を見失ってしまうこと。
一番怖いのは、上の言うことが何より正しいと、考えることをせず盲目に叫ぶ
英語の先生のような人がどんどん生み出されてゆくこと。


校長先生(@大谷亮介)の屋上スピーチが本当にショックでした。
それまでの話の中で私も拝島先生(@近藤芳正)と同じように、校長先生は
"内心では反発し、おかしいと思いながらも学校を守るため歌ってる"立場だと
思ってたんで、屋上スピーチで内心の自由を態度に出すなと叫んだ姿を見て
ゾワーッっ鳥肌がたち、恐ろしくなりました。
人間変えちゃうほどの圧力なんだ。これが"洗脳"なんだ、と。
そしてそのスピーチを保健室で俯いて聞く仲先生(@戸田恵子)が印象的で
だから余計にその後の「校長先生自殺するかも、歌って」という言葉が衝撃でした。
よくよく考えれば納得も行くし、あの舞台にはその台詞しかなかったんですが
でも、やっぱり聞いた時は衝撃でした。
校長の変貌した"おかしな"姿を見てなおその判断に同化せよとすすめる……。
後から考えてわかったのが、それは校長の命が懸かっていたからということ。
教員の未来を人質に思想を強要する…すげぇ姑息*1な手段だと実感しました。


"おかしいものを見たらいきなり泣いたり怒ったりせずまず笑うものだ"
という話がアフタートークで永井愛さんが語ったことのひとつにありました。
その話を聞いて思い出したのが、片桐先生(@中上雅巳)が、
拝島先生のクラスの張君が彼の先生のクラスの女子に色目を使って
不起立を促したので止めさせてくれと懇願しにきたシーン。
話を聞いて拝島先生大爆笑。
「泣きたいです、泣きたいですよ…ヒヒィ!」
そう、こんな手段は拝島先生だって望んでいないから悲しい。
だけどそれ以前に状況が可笑しくて仕方ない。
その辺の近藤さんの演技、本当にお見事でしたね。
人間ってそういうもんなんだな、そういうのが人間らしい姿なんだなってのが、
アフタートークと相まってすごく実感できました。


ちなみに先日私も卒業式を迎えましたが
私立校なんで君が代の存在自体忘れてました。笑
言い方は悪いけどそういう問題に"振り回され"なかったのは幸せだったなぁと。
君が代といえば、一番印象に残っているのは小学校の頃の運動会です。
全員で国旗のほうを向いて斉唱するその時間には厳格な空気が流れていて
なぜだか得体の知れないものに向かったような空恐ろしい感覚がありました。*2
私の考えとしては、国旗国歌はもちろん"強制される"のはおかしいと思いますが
それが卒業式という式典を"ブチ壊し"にしてしまうのもどうかなぁという感じです。
たとえばこういうのはやりすぎかなって。
でも、おかしな権力に立ち向かう手段が不起立しかないのも認めるわけで
だから…結論は出ないから、振り回されなかったのは幸せだなぁと。苦笑


都のやり方が汚いのは明白ですよね。思想統制だ。
法律、ことに憲法の解釈についてちょっとでも齧った人ならわかるはず。
まぁその辺私は池田先生*3に習ったことが完全に地盤になってるんで
多少の偏りはあるやもしれませんが。
パンフでの周防監督との対談で出ているように
司法と行政が分立されてない、非常に危うい状態だと思います。
この舞台、朝日新聞で取り上げられてるのは何度か目にしたけど
他ではどんな扱いなんだろうな?


そういえば、暗い日曜日ってシャンソンだったんですね。
数年前に知って、いまだに怖くて聞けてない曲。ナチスを歌った歌だったんだ…。

暗い日曜日~トリビュート~“Gloomy Sunday”

暗い日曜日~トリビュート~“Gloomy Sunday”

暗い日曜日 日本語 歌詞」でググっても拝島先生の歌ったのは出てこないです。
う~ん、歌詞気になるのに。


ちょっと投げ気味なまとまってない感想で残念ですが、こんな具合で。

*1:本来的な"一時しのぎ"の意味でも、現在まかり通ってる"卑怯な"の意味でも

*2:それは思想とか圧力とは違う、何百年も前に建ったお城を夜に探索するような畏れの感覚でした

*3:河合塾小論文講師・池田五律先生。ググればたぶん色々出てくる。